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若竹七海『心のなかの冷たい何か』

昔、とても仕事が忙しく、職場での人間関係にも行き詰まりそうだった頃、
朝のホームで電車を待ちながら
「反対ホームに入ってきた下り電車に飛び乗って、会社とは別の場所に行ったらどんな気分だろう」
なんてことをぼんやりと考えることが時々あった。

実際にそんなことをしたら無断欠勤か大遅刻で後で怒られることになってしまうだけで
何もいいことなんてないのだろうけど。若竹七海『心のなかの冷たい何か』_b0076922_22523824.jpg

若竹七海『心のなかの冷たい何か』を読み終えた後、何年も前のそんな気持ちをふと思い出した。

この小説は若竹七海の初期の作品で1990年に書かれたものなのだが(バブル真っ盛り?)、
古さをまったく感じさせず読者を夢中にさせて一気に読ませてしまう力のある作品だと思う。


~あらすじ~
失業中の若竹七海は思いつきで乗った箱根行きの電車で一之瀬妙子に出会った。
強烈な印象を残した一之瀬妙子は、それから数ヶ月もしないうちに不意に七海に電話をよこしクリスマス・イヴの約束を取り付けたかと思うと、まもなく自殺を図り、植物状態になってしまう。
悲報を聞いた折も折、七海のもとに当の妙子から鬼気迫る犯罪についての『手記』が届いた。
妙子に何が起こったのか、真相を求めて七海の探偵行が始まる。


誰にでも二面性があり、人は皆、複数の顔を持っていると思う。
どちらが表で、どちらが裏か・・・。
主人公の七海にも妙子にもある、心のなかの冷たい何か。
それは当然私にもあって、現実の中でどうにか抑制し使い分け、時には気づかぬふりで日々を過ごしている。
だけど、たまには真正面からバカ正直にその「何か」に対峙してみてもいいんじゃないか、
そんなことを読後に思った。

by rose_soleil | 2009-03-17 23:05 | わたしの本棚